今回は高力ボルト摩擦接合の設計です。高力ボルト摩擦接合の接合方法や、設計方法、を説明していきます。まずは、その接合方法を見ていきましょう。
接合方法
高力ボルト摩擦接合の接合方法は以下の通りです。下の図も参考にして下さいね。
- ナットを回すことにより、板と板を締め付け、板と板の間に材間圧縮力を生じさせる
- 材間圧縮力に伴う摩擦力によって、力を伝達させる

摩擦力が耐えられる範囲まで、板が滑ることはないので、非常に剛性の高い接合部となります。また、材間圧縮力は高力ボルトに生じる引張力と釣合うので、強度の高いボルトを使用すると材間圧縮力が大きくなります。よく使用させる高力ボルトにはF10Tがあります。以下に、いくつかの高力ボルトの性能を示します。
高力ボルトの種類 | 耐力(N/㎟) | 引張強さ(N/㎟) | 伸び(%) | 絞り(%) |
F8T | 640以上 | 800~1000 | 16以上 | 45以上 |
F10T | 900以上 | 1000~1200 | 14以上 | 40以上 |
F12T | 1260以上 | 1400~1490 | 14以上 | 40以上 |
設計方法
高力ボルト摩擦接合の短期許容力は
- 高力ボルトのすべり耐力
- 母材の有効断面に対する短期許容引張力
のどちらか小さい方で決まります。それ以上の力で引っ張ると、ボルトもしくは母材が破断してしまいます。次に、それぞれの力の求め方を見ていきましょう。
高力ボルトのすべり耐力とは?
高力ボルトのすべり耐力が短期許容力となる場合、引張荷重Pとすべりの関係は以下のような関係を示します。

上図において、すべり現象が生じる時、つまり荷重がすべり荷重Psに達した時を、高力ボルトのすべり耐力として定義します。では、すべり耐力Psはどのように計算するのでしょうか?先に計算式を書くと以下のようになります。
$$ P_{s}=n\cdot m\cdot u_{s}\cdot N_{0} $$
ここで、
n:ボルト本数
m:摩擦面の数(1or 2)
us:すべり係数(0.45の場合が多い)
N0:設計用ボルト軸力
摩擦面が一つで、ボルトが一本の時の摩擦力bqsは
$$ _{b}q_{s}=u_{s}\cdot N_{0} $$
となります。これは高校の物理で習う摩擦力と同じ考え方ですね。また設計用ボルト軸力N0は、以下の式で表せます。
$$ N_{0}=0.75_{b}\sigma _{y}\cdot _{b}A_{e} $$
ここで、
bσy:高力ボルトの耐力
bAe:ネジ部の有効断面積(=0.78~0.8×軸部断面積)
例えば代表的な高力ボルトであるF10T-M20の場合(M20はボルト軸径が20㎜)は
$$ \begin{aligned}N_{0}=0.75\cdot 900\cdot 245=165kN\\ bAe=0.78\cdot \left( \dfrac{20}{2}\right) ^{2}\cdot \pi =245mm^{2}\end{aligned} $$
となります。したがって、一面摩擦ボルト一本の時のすべり耐力は
$$ P_{s}=0.45\times 165=74.3kN $$
となります。
以上がすべり耐力を求める手順です。つぎに、板の有効断面に対する短期許容引張力について見ていきましょう。
板の有効断面に対する短期許容引張力とは?
高力ボルト摩擦接合の短期許容力は
- 高力ボルトのすべり耐力
- 母材の有効断面に対する短期許容引張力
のどちらか小さい方で決まりました。例えば、すべり耐力が100KNで、母材の短期許容引張力が50KNの時、50KN以上の力で引っ張ると、母材が破断するイメージです。では、この母材の短期許容引張力の求め方を見ていきましょう。
母材の短期許容引張力をPaとすると、以下に式で表わせます。
$$ P_{a}=A_{n}\cdot \sigma _{y} $$
ここで、
An:母材の有効断面積
σy:母材の降伏応力
母材の降伏応力は材料によって決定する値です。例えばSN400材を使用した時は、σyは235N/㎟ですね。では有効断面積はどのように求めるのでしょうか?
母材の有効断面積の求め方
母材はボルトを通す孔が開いています。そのため、断面が欠損しており、この分だけ弱くなっています。この欠損面積を考慮した断面積を有効断面積とします。従って、全断面積をAg、欠損面積をaとすると
$$ A_{n}=A_{g}-a $$
となります。欠損面積は、孔の配置によって計算方法が変わります。
整列配置の場合の欠損面積

上図のように孔が整列配置の場合、破断線は穴の中心を通り、材軸に垂直な直線となります。この時、欠損面積aは
$$ a=n\cdot a_{0} $$
です。ここで
n:孔の列数
a0:一つの穴の欠損面積=孔径×板厚
です。また孔径は以下のように求めることが出来ます。
高力ボルトの軸径ds(㎜) | 孔径(㎜) |
$$ \begin{aligned}ds <27\\ ds\geq 27\end{aligned} $$ | $$ \begin{aligned}ds+2\\ ds+3\end{aligned} $$ |
千鳥配置の場合の欠損面積

上図のように千鳥配置の場合、破断線は複数考えられます。斜め方向の欠損断面の算定方法は実験結果に基づき以下のように設計されます。
b≦0.5gのとき \( a=a_{0}+a_{0} \)
0.5g<b≦1.5gのとき \( a=a_{0}+\left( 1.5-\dfrac{b}{g}\right) a_{0} \)
b>1.5gのとき \( a=a_{0}+0 \)
以上が欠損面積の求め方です。欠損面積が求まると、有効断面積がもとまり、母材の許容引張力が計算できます。
まとめ
以上が高力ボルト摩擦接合の許容力の求め方です。覚えることが多いので、まずは流れを確認しましょう。次回は、今回の内容を使って、問題を解きます。